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「姫川。今のは中学の同期か何かか」
進藤が去ったあと、進藤の背中を見つめていた二人。その空間に耐えられなかったように男は姫川に喋りかけた。
「はい。私の中学の部長でした」
「へぇ、お前んとこの部長か。そりゃ凄い奴なんだろな」
「そう、ですね。昔のライバル、といったところでしょうか」
「ふーん」
山野はそういうとトロンボーンのマウスピースに口をつけ、息だけを吹いた。
「ま、精々この演奏会を楽しんでくれりゃいいんじゃない」
「……」
姫川は納得のいかない顔を山野に見せた。
「おいおい。先輩に喧嘩か」
「違います。進藤はあんな好戦的な態度なんて私に見せたこと無かったんです」
「進藤は子供の頃からトロンボーンを演奏していた私を見て、ただ黙々と私を抜くことばかり考えて練習するような人でした」
姫川は眉間にしわを寄せた。やはりあの態度が腑に落ちないようだ。
「姫川。それは舐められてるんだ」
「はい?」
「お前より上に立つ算段が出来たんだろうよ。やっと、ってね」
姫川はそれを聞くとトロンボーンを構えた。
「なるほど。まぁ、あの日音もまともにならせなかった進藤に会って四年目。しかし、たったそれだけで私を超えるような事なんて…」
「ひとまず。余興みたいなもんだけどな、アンサンブルなんて。だが、全力で行く事に変わりはないな」
山野がそう言うとチューニングを始める。
「私はもうあなたの手の届かない所にいる」
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