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健太が千尋に訳を聞く。
「三年前まではさ、あったらしいんだ、吹奏楽。昔は強くて評判なくらいだったみたいで。ただ、人員が不足してその翌年に廃部、さらには顧問まで転勤。残ったのは楽器だけでオーボエからファゴット、さらにはイングリッシュ――」
健太が千尋の流れ出るような話を手で遮る。当然のごとく千尋は健太に『?』な顔を見せた。
「まて、誰から聞いたんだ」
健太の目が真剣になる。
「え、あんまり知らないやつ」
「一年だな?」
「え、まぁ一年で間違いはないけど……」
健太が腕を組みどこかを睨む。すべり台辺りか……、いや、シーソーか。
「そいつ…やけに詳しいな。もともと吹奏楽だったんじゃないか?だいたいイングリッシュホルンとか吹奏楽あんまり関係ないし」
千尋の顔がしばらく静止する。すべり台とか関係なかった。
……ん?
「……そうか!そうかもしれない!気づかなかった」
健太の言う意味がやっとわかった千尋。少し顔が明るくなった。
「あぁ、気づかないお前にビックリ。まぁそうだからってなんもないけどさ」
健太が軽く笑う。たしかにそうだからって吹奏楽があるわけでもない。
「というか知らない奴って、友達じゃないのか?」
健太が何かにひっかかったような顔で千尋を向く。組んでいた腕を崩し顎に手を置いた。
「え、あ……いや、あのさ、俺……まだ友達いないんだよねアハハハハハハハ」
またアハアハと笑いだす。こんどはさらに顔がひきつっている。もう死を目前にそれを覚悟した人のようだ。
「(だからいつもより元気がないわけだぁ……)と、とりあえずさ、吹奏楽関係ってわけでそいつくらい仲良くしたらどうだ」
健太が話をはぐらかす。
こういう機転はすぐに利く男だ。
「んー……あぁ、そうだなぁ」
千尋も話を流そうとする。
千尋の顔は無理をしているような笑顔だった。
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