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こちらスネーク、前言撤回だ。
ごめんなさい、いきなりふざけました。
でもとてもじゃないけど軽やかなステップなんて踏めそうにない。
とりあえず今は曲がり角の陰に隠れて様子を窺っている。
時折通行人に冷ややかな視線を浴びせられるが、今は目の前の凶事だ。
理由?それは簡単。俺の行く手には怒りに満ちた俺の幼馴染がいるからな。
彼女の名前は七瀬咲月(ななせ さつき)、容姿端麗で頭も悪くない、運動はかなり得意で前にスケット参加した陸上の大会で優勝してしまう位だ。
身長が俺より少し小さいだけってのが不思議でならねぇ。
ついでに胸も小さ…ゲフゲフ……えーとスレンダーだ。
まぁ気さくに話せるということで男女に人気だな。
そんな女の子が遅れた俺を健気に待っていてくれる、と言えば聞こえがいいが現実はそうじゃない。
待ってはいてくれるのだが、明らかに怖い。
道のど真ん中で腕を組み胸を反らして俺が現れる方、つまりこちらを鋭く睨んでいる。
なんか腰まである長い黒髪がフワッと浮いてるし。
しかも怒りに満ちた彼女の背後には修羅の幻覚が見える始末。
待つにしてももうちょっとどうにかならないか?背後の修羅とか…
しかしずっとこんな角でこそこそしている訳にもいかず、俺は天下の往来を不法占拠する咲月に声を掛けた。
「おぅ、待ったか?」
片手を上げて軽い挨拶も交えて声を掛けた。
心は波一つ立たない湖面のように静かに、声は晴れ渡る春の空のように穏やかに。
どうだ?こんな穏やかな人間を前にしたら咲月の怒りも吹き飛ぶだろう。
一方声を掛けられた咲月は一瞬怒りを露にしたが、俺のあまりにも穏やかな顔を見て、すぐに表情から怒りが消えた。
しかも笑って俺に駆け寄ってきてくれる。
やっぱり人間は笑顔が一番…
「遅い!!」
「んぐっ!?」
駆け寄ってきた咲月は俺の喉に拳を突き出してきた。
腰の捻りや体重移動も考慮した完璧な一撃。
なんか拳が喉にめり込んでるんですけど…
あまりの衝撃に息も出来ない俺の身はそのまま宙に投げ出される。
やっぱりこうなるのか…
「いつまで待たせるつもり?」
やたらスローモーションで流れる世界。
空は今日も綺麗だ。
ゆっくり流れる雲を見ながら、やたら鮮明に咲月の声だけが俺の耳に届いていた。
そして遅れて全身に鈍い衝撃が走った。
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