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「宗クン!早く行かないと遅刻する!」
「おま…速過ぎ…」
俺の数歩先を悠々と疾駆する咲月。
てか何で男の俺より速いんだ?
「鍛え方が甘いのよ」
しかも走りながら会話する余裕すらあるらしい。
何故俺たちがこんな頑張って走っているのか?そんなの簡単。
遅刻しそうだった俺が咲月に殴られて気絶。
すぐに起こしてくれれば良かったのに、何故か放置してたらしい。
理由を訊いてみたら、フンと薄い胸を反らして、
「寝顔が可愛かったから」
とのこと。
気絶した顔は寝顔とは言わない気がする。
しかも苦悶の表情だろ?
つかんなもん見てねぇで起こせバカ。
「もう、宗クンはしつこい!少しは待っててあげたわたしに言うことはないの!?」
「じゃあ質問。お前はいったい何時からあそこで待ってたんだ?」
「……六時…」
不満げな顔でそう呟いた咲月。
あ~…俺の登校時間が大体八時前だから…
なるほど、コイツは真正のバカなんだな…成績は決して悪くないのに…
「うるさい!寝ぼすけな宗クンのために待っててあげたのに!」
「じゃあ家まで起こしに来てくれたら良かったじゃないか」
「あ…」
この幼馴染は今頃気付いたのか…
俺が呆れた視線を送っているとそれに気付いて、咲月は半眼でこちらを睨んできた。
「何で遅刻した宗クンにわたしが責められてるのかな?」
「そりゃ普段は自分勝手なお前の揚げ足取りが出来るからごめんなさい!関節が砕ける!」
咲月は走ってる状態で俺の右腕に関節技を決めてきやがる。
「さ、咲月、腕の関節はそっちには曲がらなッ!!」
「何言ってるの?わたしはただ宗クンにいかがわしい噂が立つように腕を組んでるだけよ?」
なんて陰湿なことをするんだ!
そんなことをされたら俺の華の高二生活がことごとく潰されてしまう!
それに腕の色が徐々に青紫に…
流石にこれはマズイ…
「ちょっと…咲月…さん?」
「じゃあ行きましょうか、あなた♪」
他人が聞いたら一発で誤解されそうな一言を放った咲月は、嬉しそうに俺の腕を引いて走っていく。
「(今年もこれかよ……)」
俺は春の日和にも関わらず重いため息をつきながら、咲月に腕を引きちぎられないように走るスピードを上げた。
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