5.ヘブン

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5.ヘブン

~ラウンジ~ 最上階のラウンジは、ラブの登場でざわめき立っていた。 ラブは、一通りサインと握手を終えると、山本の待つカウンター奥の席に着いた。 ラブは注がれたワインを片手に、山本に聞いた。 『ふぅ~。強引にごめんなさいね。山本リサさん。あなたは、奥田史裕さんをご存知ですね。』 奥田は戦場カメラマン。 2年前にボスニアの内戦を取材中に、戦闘に巻き込まれ、命を落としていた。 山本は、さっき告白しようとした話の、核心につながるこの質問に、心臓が止まるかと思った。 『は、はい。知っていたのですか…。彼は私の恋人でした。彼とは2年程付き合い、結婚の約束までして、危険な仕事はこれが最後だと言ったきり…、二度と帰って来ませんでした。』 『悲しいことでした。あなたがずっと抱えていることを、話してもらえませんか。』 『…はい。彼が何処へ行ったのかは、知りませんでした。私は帰る日を毎日毎日、待ち侘びていました。ある日、いつものニュースを放送中に、臨時ニュースの原稿が私の目の前に置かれました。ボスニアで紛争に巻き込まれた日本人が死亡。そして…、そこに彼の名前がありました。』 本番中、その名前を読み上げた後、彼女は気を失ったのであった。 『それから暫くして、現地で彼の案内役をしていた男性から、小さな小包が送られて来ました。奥田が、もしもの時は私に送る様にと言付けたものでした。』 山本は、少しためらった。 が、ラブがうなづくのを見て、話を続けた。 『中身は写真でした。それは何かの取引現場のようで、私はそこに映る人物を必死に調べ、何とかその内の二人には辿り着きました。一人は、ボスニア軍の指令補佐官であり、大金を受け取っていました。渡している人物は、後ろを向いていましたが、黒いスーツのポケットから何かが覗いているのに気付き、拡大すると、ネックレスの様に見えました。数日後、現地へ行った時に、私は偶然見つけたのです。それは…』 ラブが、ポケットから取り出したものをカウンターに置いた。 それは、ボスニアの子供達がクリスマスにくれた首飾りであった。 (エピソード1) 『これね。おそらくは、現地での活動が載った雑誌か映像で気付いたのね。』 『ええ。現地の雑誌です。最初は、偶然同じものを付けているだけだと思いましたが、「子供達の手作り」というあなたの言葉で、確信しました。』
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