[まずは迂回して…]

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 別に特別な休日でもないのに平日の真昼間から街を練り歩いているのにはたいした意味も無く、ただ単に仕事をしようにもできないでいるからだ。  今から一ヶ月程前、つまり六月の下旬。いけ好かない上司から突然に呼び出され、もう会社に顔を出さなくていい旨を伝えられた。別に給料がいいとか、特殊な思い入れがあったわけでもなく、ただ大学の卒業と共に成り行きで入っただけの会社だったのですんなりと辞めてしまった。  まぁ、うだうだ言ったところでクビという事実は覆される訳でも無いのだけど。  そんなこんなで急に収入が無くなったからと実家の両親に頼ることもできず、取り敢えずはバイトの掛け持ちで食扶持を繋いでいた。しかし、そんな生活では体力がもたないわ気力も足りないわでグダグダの毎日になってしまう。だからこそ俺は思い立ったが吉日と偶然空いた休みの日に気分転換しに街へと繰り出していた。片手には学生時代に凝っていたカメラを持って。 『あっちぃなぁ……』  八月もまだだというのに非情な蒸し暑さを誇る街に悪態を吐きながら雑踏を掻き分ける。右手に抱えたカメラにはうっすらと汗が滲み始めていた。  カシャッ!  人通りの多い場所へ出ると何気なく一枚撮ってみる。  うん、結構イイ感じに撮れたかな。無駄な自画自賛になること請合いだが今はいいだろう。別に誰かが俺の写真を批判するわけでも無く、趣味の一環として撮るんだ、上手い下手は関係ない。  と、自分への言い訳を並べ立てながら街の中を一人進んで行く。  日も高く昇ると、行き交う人々の数もグンと増えた。自分では意識していなかったが足は自然に郊外の住宅地の方へと向かっていた。  まぁ、人込みより閑散とした場所の方が好きってことだ。皆もそうだろう? がやがや五月蝿いより耳がキーンとする位静かな方がまだましだ。だって、静かなのはどうにでもなるが、五月蝿いのはどうにもならない。そのうえ、イライラする。結局のところ静かなのが一番好きなんだ。  俺はね。
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