[まずは迂回して…]

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 足も固くなり額から流れる汗も止まらなくなる頃、俺の腹は空腹だと不満を言い始めた。しょうがないからと近くで腹拵えしようと思ったのだが、郊外へと来てしまったせいで食事処等全く見つからない。 『しょうがない、我慢するか』  と、諦めかけた時、一台の車を発見した。 《焼きたて! 丸山パン》  平々凡々でつまらない名前だったが、今の俺には渡りに船と十分過ぎる位の御馳走に見えた。腹が減っているときはなんでも美味しく見える人体の七不思議と言ったところか。(あとの六つは何だと聞かれても答える自信は無いので、軽くスルーしてくれると嬉しい)  適当にパンを選び、いくつか買うと近くの公園へと向かう。別に歩きながら食うのが嫌だとか、幼い頃から食事は椅子に座ってしなさいときつく言い聞かされて訳でもなかったし、他人から上品に見られたいと思った訳でもない。たぶん、ゆっくりと昼食タイムを楽しみたかっただけだろう。別に他意は無かったつもりだ。  ベンチに腰を下ろすと紙袋の中から昼食第壱號を取り出す。掴みとったのは焼きそばパン。いつから好きになったかは解らないが、数少ない俺の好物だ。あんパンより数段レベルの高い和洋折衷の生み出す味のハーモニーが堪らなく良いのだ。麺の食感を壊さないよう程よく焼かれたパンに、コラボレーションのために少し濃いめに味付けされた焼きそば。正にパンの中のパン、キング・オブ・ザ・パンだ! 焼きそばパンに勝るパン無しと言っても過言ではないだろう。考えるだけでたまんねぇと包みを開封しようとした時、目の前の空間から一際澄みきった声が響いた。
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