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そこからあまり離れていない廃れた廃工場に男は入っていった。シャッターを開けると、がらがらとやかましい音をたてながら開かれた。月の光が暗い工場内に差し込まれる。男は無言のまま、工場内に足を踏み入れた。
中は真っ暗でよく見えない。男は終始無言のまま、ひたすら歩いていく。やがて暗闇の中で立ち止まり、腕を組みながら後ろを振り返る。月の光が僅かに差し込んできて男の顔を照らし出す。男の瞳は朱い色をしていた。
『その様子だと任務は無事に完了したようだな…』
『誰だ貴様…』
男は背後を振り向き、いつの間にかそこに佇んでいるスーツ姿の男が立っていた。サングラスをかけている為、素顔はよく見えない。その男の正体は朱い瞳の男に依頼した依頼人だった。
『まさか、請負人は依頼人の顔さえも忘れるのか…?』
『背後に立つな…次にしたら殺すかもしれない』
スーツの男に殺意のようなものを含んだ視線を向ける。ホルスターのピンを外し、いつでも撃てる状態にした。
『冗談はやめてくれ。それより例の物は…?』
『ああ、ここにある…』
ホルスターのピンを元に戻すと懐ろから一枚のディスクを取り出すと男の方に投げた。それを受け取ると入念に見ていたが直ぐにそれをポケットの中に突っ込んだ。
『任務ご苦労…やはり、評判通りの腕前だな』
『それより報酬の方は?』
『ちゃんと口座に振り込んだ。俺は裏切ったりするような真似は決してしない…』
男はそう言い残すと、工場の奥に消えていった。朱い瞳の男は鼻を鳴らすと工場をあとにした。
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