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男はその後、予約を入れていた宿に戻った。宿の外見はぼろぼろでお世辞にも人が泊まる場所だとは言えない。だがこういった風な宿しかこの街にはない。男は無表情で宿の受付まで行き、部屋番号を教えてもらい、真っ直ぐ部屋に向かうとドアを開けた。中はベッドとテーブルと椅子が二つしかない殺風景な部屋だった。このような宿に泊まるのは男にとって初めてだった。
『居心地は最悪だ…明日にはこの街を出よう』
男は不満げに呟くとベッドに体を埋めた。ふむ…ベッドは悪くないな…。男は瞳を閉じると静かに寝息をたて、意識を手放した。
翌日、太陽が完全に昇ってなくまだ街の住人の殆ど全員が眠りについている頃、男は街を出た。ここの街の住人達は全員愛想が悪かった。人を探るようにじろじろと見つめてきたりするのだ。
街から出て、外れの倉庫に向かう。シャッターを開け、中に足を踏み入れると目の前に一台のバイクがあった。赤色を基調とした大型の物で後輪の横にはサイドバッグが付けられてある。男は黙ってその側に近寄るとバックの中から茶色のローブとゴーグルを取り出すと身につける。
『この街にはもう来たくはないな…』
男はそう言うと、バイクのエンジンをつけた。辺りに爆音が轟き、男は荒野に飛び出した。しばらく荒野を疾走していると前方に渓谷が見えた。男はスピードを上げるとそこに突っ込んだ。渓谷は入り組んだ形になっており、ところどころ曲がり角の角度が急になっていたがそんな事、お構いなしに更に速度を上げていく。
渓谷は思ったほど長くは続かなかった。また見慣れた荒野に抜けだし、変わらない風景に気分が滅入ってきた。ゴーグルに小さな小石が何個もぶつかってくる。目は守られているが顔に何度も喰らい、男は静かに舌打ちをする。やがて風景が荒野から草原に変わり、人が切り開いた道の上にバイクを移し、ひたすら飛ばしていく。
やがて地平線の奥の方に何かが霞んで見えた。目を凝らすと建造物や巨大な門が見えた。どうやら次の街に辿り着いたようだ。
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