【携帯】

2/3
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
 携帯は個人を世界から切り放す。  どこにでも持ち歩ける、いつでも使える便利な機械。だけど。  どこでも使えるというのはどこでも独りになれるという事。  いつでも使えるというのはいつでも独りになれるという事。  そう、目の前に誰かがいたって同じ。携帯は速やかに使用者を切り離し、向こうの側へ連れて行ってしまう。いともたやすく。 「ねえ」  私は携帯で遊んでいる彼の肩を揺らす。 「ん……ちょっと待って」 「やだ。いい加減にしてよ」  軽く爪を食い込ませる。 「痛っ、待てって」 「そんなの面白いの」 「んー。まぁ」  お得意の生返事に、私は彼から携帯を奪い取った。電源を切る。 「あってめ、」  一瞬むっとしたものの、私がそれ以上に不機嫌な顔で睨んだからか、彼はただ溜め息をついた。 「はいはい、ごめんって」  そう言って、携帯を自ら手の届かない場所に追いやる。私はほっとした。  彼がこちらの世界に帰ってきてくれたから。私の存在を認めてくれたから。  彼の頭に腕をぎゅっと絡めて――私は、彼が今諦めた向こうの世界にざまぁみろと舌を出した。  つまらない嫉妬。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!