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携帯は個人を世界から切り放す。
どこにでも持ち歩ける、いつでも使える便利な機械。だけど。
どこでも使えるというのはどこでも独りになれるという事。
いつでも使えるというのはいつでも独りになれるという事。
そう、目の前に誰かがいたって同じ。携帯は速やかに使用者を切り離し、向こうの側へ連れて行ってしまう。いともたやすく。
「ねえ」
私は携帯で遊んでいる彼の肩を揺らす。
「ん……ちょっと待って」
「やだ。いい加減にしてよ」
軽く爪を食い込ませる。
「痛っ、待てって」
「そんなの面白いの」
「んー。まぁ」
お得意の生返事に、私は彼から携帯を奪い取った。電源を切る。
「あってめ、」
一瞬むっとしたものの、私がそれ以上に不機嫌な顔で睨んだからか、彼はただ溜め息をついた。
「はいはい、ごめんって」
そう言って、携帯を自ら手の届かない場所に追いやる。私はほっとした。
彼がこちらの世界に帰ってきてくれたから。私の存在を認めてくれたから。
彼の頭に腕をぎゅっと絡めて――私は、彼が今諦めた向こうの世界にざまぁみろと舌を出した。
つまらない嫉妬。
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