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僕の右手には指が残り親指と中指の二本だけ
足の指はとっくの昔に全てなくした。骨のむき出した足の先はずいぶん長い間膿んで僕の足は膝まで腐りかけてる。心臓が全身に血液を送ろうとする度に熱い鈍痛が足先から脳天まで突き抜ける。
でも僕は幸せだ
君には見えない。無償に捧げられた肉片しか。君は広い世界で1人ぼっちでいつもさまよってる。
僕が指を切り落とすとほんの一瞬僕の方が見えるんだね。
流れるように熱く動く時間の中で君が欲しいんだ。
僕の体を少しあげるだけで、それで叶うなら僕のちっぽけな体は大きな意味を持ち、腐りかけた汚い肉は眩しいほど白く輝くんだ。
指がなくなった。手の甲を切り落とした。両手がなくなったらどうやって切ろうかな。どうやって彼女に会えるかな。どうやったら彼女の不安は消えるかな。
肉体の痛みなんて小さなものだった。君の不安が痛いんだ。
君の大きな瞳を瞼が下を向き半分隠してしまうと僕の心臓は根元を締め潰されたように苦しく痛むんだ。
僕の方を見て。
どんどん僕は小さくなってく。
最後の指を切り落とした時に彼女は言った。
「心が氷のトゲをむき出し周りを指すように傷付ける痛み、耐え難いくらい不安でした。広い世界で私は1人きりで。でも私のわがままであなたはどんどん小さくなってく。急がないと、急がないとあなたは消えてしまう。
もう十分です。そばにいなくても、もう心は痛まないです。」
十分だった。もう十分だった。彼女にも僕にも。
ここに本当があった。広い宇宙にたった一つだけ。
世界に本当が生まれた瞬間だった。
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