源氏の武士、涙に暮れる

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  キキッと音を立てて車が停車する。   リズヴァーンのマンションの前だ。   「ほら、早く降りろよ九郎…っ」   「い、い、嫌だっ。そんな現場に踏み込むなんて…っ」   また勝手な想像でポロポロと涙を零す。   「そんな現場って…妄想激し過ぎだろ…。ただ遊びに行ってるだけかも知れないじゃん。ほら、早く…」   「嫌なものは嫌だあっ」   先に降りているヒノエが九郎の腕を引っ張るが、ドアの開閉用のノブにしがみついて離れない。   「女々しいなっ、男だったらマンションに乗り込むくらいの事しろよっ。それでも源氏の武士かよっ」   「まあまあ、ヒノエくん…」   「景時は黙ってろ」   「はい……」   飼い主に叱られた犬のように、景時は口を閉じた。   「ほらっ、行くぞ九郎っ」   「嫌だあぁーっ」   車内から引きずり出された九郎はヒノエに引かれるままマンションへと入って行く。   その後を、苦笑しながら景時がついていく。
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