第一章 出逢い

6/13
前へ
/62ページ
次へ
翌日、私は昨日と同じ駅に着いた。 「まさか………」 まさか昨日見た天狗じゃないわよね? 一応それなりに道具一式を持ってきた。 対抗はそれなりに出来るとは思う。 「はぁ~…」 ……正直、憂鬱。 「雅様」 駅前で待ってた私に依頼人らしき人が声をかけてきた。 随分お年を召されている男性。 優しく私に微笑んだ。 「お待たせして申し訳ありません。ご案内させていただきます」 「お願いします」 案内されるまま林の近くまでやってきた。 「この奥に大きな桜の木がございまして、そこに住み着いておりまして」 きた――――! 本当にあの天狗だ。 昨日と同じ強い妖気。 間違いない。 昨日見た天狗だ。 はっきり言って、自信なんてまるでない。 天狗にはなるべく関わりたくない。 でもそんなこと言ってたらこの仕事は成り立たない。 覚悟を、決めなくちゃ―― 「わかりました。ここからは私ひとりで参りますので、ご主人はこちらでお待ちください。もし私がなかなか帰って来なければ帰ってしまってかまいません」 「そんな!」 「天狗とは人以上に知恵を持ち、力もあります。賢い分怒らせてしまうと厄介です。そのとき、ご主人に危害を加えない保障はありません」 「ですが…」 「仕事をお引き受けした以上、依頼人を危険にさらすことは出来ません。わかっていただけますか?」 優しい人なんだろうなぁ。 私を心配してならないと言った表情をしている。 私はなるべく優しい微笑みでご主人にもう一度声をかける。 「私なら大丈夫です。やられるようなヘマはしませんから」 やはり心配そうな表情ではあるが、仕方ないと諦めたようにまた私に微笑んだ。 「お気をつけください」 「はい。ありがとうございます」 ご主人を背に私は林の中に入っていく。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加