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翌日、私は昨日と同じ駅に着いた。
「まさか………」
まさか昨日見た天狗じゃないわよね?
一応それなりに道具一式を持ってきた。
対抗はそれなりに出来るとは思う。
「はぁ~…」
……正直、憂鬱。
「雅様」
駅前で待ってた私に依頼人らしき人が声をかけてきた。
随分お年を召されている男性。
優しく私に微笑んだ。
「お待たせして申し訳ありません。ご案内させていただきます」
「お願いします」
案内されるまま林の近くまでやってきた。
「この奥に大きな桜の木がございまして、そこに住み着いておりまして」
きた――――!
本当にあの天狗だ。
昨日と同じ強い妖気。
間違いない。
昨日見た天狗だ。
はっきり言って、自信なんてまるでない。
天狗にはなるべく関わりたくない。
でもそんなこと言ってたらこの仕事は成り立たない。
覚悟を、決めなくちゃ――
「わかりました。ここからは私ひとりで参りますので、ご主人はこちらでお待ちください。もし私がなかなか帰って来なければ帰ってしまってかまいません」
「そんな!」
「天狗とは人以上に知恵を持ち、力もあります。賢い分怒らせてしまうと厄介です。そのとき、ご主人に危害を加えない保障はありません」
「ですが…」
「仕事をお引き受けした以上、依頼人を危険にさらすことは出来ません。わかっていただけますか?」
優しい人なんだろうなぁ。
私を心配してならないと言った表情をしている。
私はなるべく優しい微笑みでご主人にもう一度声をかける。
「私なら大丈夫です。やられるようなヘマはしませんから」
やはり心配そうな表情ではあるが、仕方ないと諦めたようにまた私に微笑んだ。
「お気をつけください」
「はい。ありがとうございます」
ご主人を背に私は林の中に入っていく。
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