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林の中を進んで行くと草原に出た。
満開の桜が舞い散っている中、それはいた。
舞い散った桜の中で、木を背にパラパラと舞っている桜を見つめてる。
優しげで、少し儚げなそれは私に気づかず、そこらにいた小鳥を呼んだ。
「今日もここは静かだな。あんまり人間と関わるなよ。取って食われでもしたら大変だ」
なっ!失礼な!
でも、天狗は小鳥の頭を撫でると空に放してやった。
空を見上げて儚い気配がさらに濃くなる。
私は何故かそれが不安になる。
「………ねぇ」
むやみに声をかけては危険。
でも、何故かたまらず声をかけてしまった。
「……人間か?」
特に驚きもせずそう聞かれた。
「ええ。あなたはここで何をしているの?」
背を向けたまま天狗は私をチラリと見る。
「ここは静かでいい。俺がここにいれば普通の人間は近寄らん。―――お前は何者だ?」
あらら、さっそく本題に入っちゃった。
「私の質問の答えになってないわ」
「そんなことはどうだっていい。お前は何者だ。気配を消して近付いてくる上に俺を何かわかって話しかけているだろ」
未だに私に背を見せたまま話す天狗に、私はちょっと気分が良くない。
「その問いに答えて欲しいなら、私の方を向いてほしいんだけど」
「フッ」
鼻で笑われてその背中を軽く睨むと、ゆっくりと立ち上がりこちらに姿を現した。
その姿は美しかった。
少し青みかかった肩まである黒髪を静かに背中に流し、赤い瞳に私をしっかり捕らえている。
着物の上に下は袴を履いてる。
着ている物の色は全て淡くて、赤い瞳が一段と際立って見えた。
「聞かせてもらおう、お前の答えを」
勝ち誇ったような得意気な表情がよく似合った。
「言わなくてもわかってるんじゃないの?」
「検討はついている」
「なら聞くなよ」
「あくまで検討だからな、確認を求めているんだ」
「おわかりの通り退治屋よ」
「やはりな」
「だから、わかってるなら聞くなって」
天狗と私の距離はそう離れていない。
天狗が切りかかってくれば私は逃げることは出来ない。
でも何故か、怖くはない。
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