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「俺を退治しに来たのか?」
急に目を細めて冷たい視線が飛んでくる。
「そうだって言ったら?素直に退治されてくれるの?」
「そんなわけないだろ」
「ですよね」
期待なんかしてなかったけど。
「退治する気はあるのか?」
「え?」
冷ややかな目は相変わらず。
「少なくとも俺の知ってる退治屋は妖怪とのこのこ会話はしないな」
「でしょうね。でも言葉が話せるなら話して損はないと思うわ」
「そうか?」
「少なくともあなたは私に攻撃しようと思ってないでしょ?」
天狗が大きく目を見開いた。
そんなに驚くようなこと言ったかな?
「くだらないな」
「なによ。声もかけずにいきなり攻撃すると怒るくせに」
「まあな」
くだらない会話。
でも妙になじむ。
私は本当に、この天狗を封印していいのかな?
「なんなんだ、お前は」
「だから退治屋。でも理不尽な事はしたくない」
「と、言うと?」
私は先日山に帰した化鼠の依頼を思い出した。
「人間の勝手のせいで人里に下りてこなければならなくなった妖怪たちを、有無を言わせずに退治なんてしたくないの。被害は人間が招いた事なのに、見えないからとか聞こえないからとか言って、簡単に退治しちゃいけないと、私は思うから……」
自分も理不尽をしている人間であるから救いがない。
でも、見えて聞こえる人間が妖怪の事情なんかを聞いてやれば少しは人間と妖怪の間を緩和出来るんじゃないかと思うから。
だから私は話をせずにはいられない。
そりゃ、本当に人間を殺しそうな妖怪はさすがに何かするけど……。
「偽善か?馬鹿馬鹿しい」
「なんか言われるような気がしてたわよ。別にいいよ、そう思われたって。私はしたいようにするだけだし」
さっきまでの冷めた視線はいつの間にか元に戻って、ただ真剣に私を見ているだけ。
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