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「気が散るでしょ?ただでさえあなたの妖気は強いんだから」
「それで依頼を失敗したら静かに帰ったがな」
「え?」
私は眉をひそめた。
目の前の天狗は何が言いたいのかわからない。
「俺の妖気くらいで気が散って、あんな小物にてこずりでもしたらお前に興味などわかない」
「つ、つまり…」
嫌な予感………。
「この俺があんな馬鹿みたいに妖気を放出させるわけがなかろう」
「………わざとね?」
「当たり前だ」
くっそ~!
じゃああのときずっと感じてた強い妖気は、私の気を反らすためのものだったのね!
「しかしあれだけだだ漏れにさせても見向きもしないとは、さすがと言った所か」
私は目の前の妖怪を睨みつけ続ける。
何に対して自分が怒ってるのかはわからないけど、とりあえずこの天狗の思い通りになったことが気に入らない!
「で?用は?」
私は平静を装って本題に事を移す。
「いや、用は特にない」
「はい?」
「しかしお前には興味がある。気に入った。だからしばらくお前に世話になろうと思う」
「………」
今、何て言った?
私の思考回路は停止寸前。
「………何?」
辛うじて出た言葉がこれ。
「だから、俺はお前が気に入ったから、しばらく世話になると言ったんだ」
………………。
「ふざけるなーー!」
軽く言われて、はいそうですか、といく話じゃない。
「私は退治屋なのよ?なのになんで妖怪のあなたを世話しなきゃならないのよ!」
「いいじゃないか。それに、考えてもみろ。お前は俺を封印せずに帰った。もし俺がお前との約束を破り、また実体化して木の下にでもいてみろ。お前の評判はガタ下がりだ」
「………そうだけど」
「ならば俺がお前のそばにいて、木の下から本当ににいなくなれば、バレる心配も評判が下がる心配もしなくていい。その方がお前だって楽だろう」
「っ………」
確かに、筋は通ってる。
考えてみれば、何故私は少し会話を交わしただけのこの天狗を信じて封印をやめたんだろう?
神谷の家の評判が下がることは避けたい。
本家にバレたらエラいことになる。
なら確かに、この天狗をそばにおいて、あの場所から遠ざけた方が安全だ。
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