16人が本棚に入れています
本棚に追加
今は春。
桜が咲いて、パラパラと舞っている。
今日はお祓いを頼まれて遠出をしてきた。
電車を乗り継ぎさらに田舎へ来て、神社の前にたどり着いた。
「この石像に妖怪が取り憑いているのでごさいます。雅様、どうかよろしくお願いします」
深々と頭を下げる神主は、遠いと言うのにわざわざ私を呼んだと言うことは、さぞお困りなのだろう。
顔色があまり良くない。
気力でも吸い取られているのかも知れない。
なんにしても、急いだ方がいいかも。
「わかりました。神主様はご自宅にお戻りください。危なくなるといけませんので」
「申し訳ありますん。よろしくお願いします。失礼します」
神主は私に丁寧に頭を下げてその場を立ち去った。
石像に向き直り、睨みつける。
「出てきなさいよ、狐」
キューと言う音をたてながら狐が姿を現した。
「神じゃないわね。ここのお稲荷様でもないようだし。何者?ただの化狐?」
先程から威嚇をしているんだろうけどキューキューとしか鳴かない。
言葉を持たないと言うことは低級か。
妖怪は言葉を持つ、と言うか話せるモノと話せないモノがいる。
話せるモノは中級以上。
上級や高貴なモノの中には言葉を操る妖怪もいる。
最近人里に下りてくる妖怪は低級が多い。
この化狐もその一匹なんだろう。
「素直に山へ帰りなさい。そうすれば手荒なマネはしないわ」
威嚇は一向に解かれない。
「仕方ないか」
ため息混じりにそう言うと、私はその場で険印を結ぶ。
最初のコメントを投稿しよう!