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「無事に終わりましたので、ご安心ください」
「ありがとうございました、雅様」
「念のために神主様もこれをお持ちください」
私は神主に石像に貼り付けた護符と同じものを渡した。
「何から何まで本当にありがとうございます」
「いいえ。仕事ですから」
笑って神主の家を出る。
振り返ると柔らかく笑った神主が深々と頭を下げた。
私は微笑んで去っていく。
駅を目指して歩いていると、近くの林から何かの気配を感じた。
なんだろう?
すごく大きい妖気。
私は危険かと思いつつ林の奥へ入っていった。
しばらく歩くと広い草原に出た。
その中心には大きな桜の木があって、すごく驚いた。
この近くだ。
強い妖気を感じるのは。
「しっかり食ってるか?最近は食い物もなかなか手に入らないからな」
誰!?
桜の木の後ろから誰かの声が聞こえた。
「俺も何か調達してくるか」
バサッと言う音と共に白い翼が目に入った。
あれは―――天狗だ。
私は気配を消してその場を静かに立ち去った。
天狗の伝承や伝説はよくある。
しかし天狗に直接関係ある書物は少ない。
私の家にも少しはあるが、ためになったのはその中の1、2冊。
そしてその書物のどれにも天狗に有効な手だてや攻撃の内容は記されていない。
天狗は本来気性の荒い妖怪ではない。
刺激しないように立ち去るのが今は有効だろう。
早足に林を抜け駅へ向かった。
天狗を見たのは初めてではないが、近頃ではめっきり見なくなった。
その点では少しホッとした。
この地にもまだ天狗が残っていてくれることに対して。
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