婚約

2/2
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
付き合って3ヶ月の彼と婚約したのは、一週間前のことだった。 「俺、結婚しても子供は作らないから。 それでもいい?」 今彼は、気まずそうな笑顔で、私を前にしている。 何故、結納の前に言わなかったのだろう。 「ほら俺さ、そんなに稼ぎ無いし。 でも依子には、専業主婦でいてほしいんだよね。 子供はいない方がさ、お前のこと、独り占めに出来るし。なんて…」 私は黙っていたが、頭の中では考えていた。 今なら、全てを無かったことにして、別れてしまうことも出来る。 しかし、私の心は揺れていた。 だって。私も愛して、結婚を決めた人だから。 暫しの沈黙が流れた。 「どうして…そんなことを言うの?」 「俺、子供はあんまり好きじゃないんだ」 (嘘つき…) 「私たちの赤ちゃん、欲しくないの?」 「うん。別にいらない」 (嘘つき…) 「私のこと、愛してる?」 「うん」 私も泣きそうだったけれど、彼の笑顔は今にも崩れそうだった。 どうして、彼は知っていたんだろう。 いつから知っていたんだろう。 私はずっと、彼に隠していたのに。 私が… 子供を産めない身体だっていうことを…。 彼の精一杯な愛情は、下手くそな嘘の演技だった。 この時、私は決めた。子供が大好きな彼のために。 心が綺麗で、真っ直ぐすぎて、私を裏切ることなんて出来ない彼のために。 私に出来る、唯一のこと。 「養子を、もらおうか。 子供を持てない私達みたいに、お父さんとお母さんのいない子供と、一緒に暮らそうよ」 彼の無言な答えを、私は彼の温かい腕の中で聞いた。 (ありがとう。 幸せな家庭を作ろうね。 貴方に出会えて良かった)
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!