争いの絶えない国

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少女が生まれる前から、そして生まれた時にもその国では大勢の人間が死んでいった。 少女の歴史は争いの中にあった。 他の国から逃げて来た難民と呼ばれる人たちが一度に大勢殺されたと聞いても少女は特別驚かなかった。 少女も流されるように銃の扱いを覚え、10歳で初めて人を撃った。 12歳の頃には爆弾の知識も身につけた。 難民の子供を装い敵のキャンプに忍び込み飲み水に毒を混入させた。 メルカバと呼ばれる戦車を盗み出した事もあった。 全部盗んでは申し訳ないとありったけの砲弾を敵の司令部へ撃ち込んだ。 全ては民のために…… 少女はそう教えられてきた。 少女は他の子供たちとは顔の造りが違って見えた。 馬鹿にされると相手の急所を蹴り上げて唾を吐いた。 顔を布で覆いその黒い瞳だけで周りの人間を威圧した。 ある日、少女の居場所がなくなった。 少女が特殊任務をこなして戻ると、アジトと呼ばれる廃ホテルはミサイル攻撃で大破していた。 少女を育てた男も一緒にメルカバを盗み出した仲間も急所を蹴り上げてやった意地悪な奴も可愛がっていた年下の娘も、みんな黒い塊になっていた。
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