花散り、蕾つき

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なんて嬉しそうに笑うのだろうか。 咲羅はどこか物憂げな顔で青年、否桜呂を見つめた。 「なんであんたはそんなに名前がほしいの?」 『名とはすなわち態を現すものです。私たち精霊には名がありません。それゆえに、このように不安定な身体でしたが…』 青年が咲羅の手に触れようとする。 しかし、その手は咲羅の手をすり抜けていった。 『このような状態でしたが、名を与えられれば人と同じように触れ合うことができます』 桜呂の手がそっと咲羅の手を包み込んだ。 優しい温度を感じる。 「…人間みたい」 『私たち精霊は人の思いから生まれたものたちが多いのです。私や先ほど会ったものたちのような精霊は少し特殊ですが』 「特殊って?」 『私たちは"もの"が産まれた瞬間そこに宿るのです。植物に動物、建物…私たちはいろいろなところに宿っているのですよ』 桜呂がそういって手を振る。 すると、部屋中に人が溢れた。 「えっ…」 『この部屋に宿る精霊たちです。本の一冊にまで宿っているのですよ』 咲羅は驚いた様子で目を見張った。 あまりにも多い人数だが、不思議と部屋が狭く感じることはない。
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