5人が本棚に入れています
本棚に追加
『貴女はあのとき私がいた木のそばで泣いた…私はそのときに目覚めたのです』
信じられなかった。
確かに咲羅は父親が死んだと聞かされた日、丘の上の桜の元で泣いた。
『……私ではだめですか』
「だめ…?」
『私では貴女の寂しさを埋めることはできませんか』
桜呂は咲羅を心配しているのだ。
咲羅は首を振った。
「そばに…いて」
『この命尽きるまで…』
桜呂はかすかに微笑んだ。
咲羅は恥ずかしくなって顔を背ける。
今になって気づいたのだが、桜呂はかなりの美形なのだ。
透き通るような白い肌に整った鼻梁、薄紅の唇と淡い空色の瞳…
咲羅は自分の顔が熱くなるのを感じた。
「桜呂…抱きしめて…」
そう甘えるように言えば、桜呂は包み込むように咲羅を抱きしめた。
優しい桜の香りが咲羅を取り巻いた。
「『愛してる』」
二人の言葉が重なり、目を丸くしながら視線をあわせた二人は笑いあう。
ゆっくりと二人の唇が重なった。
最初のコメントを投稿しよう!