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あの丘の上の桜が満開のときによく夜中に家を抜け出した。
夜桜呂以外の精霊たちが花見をしている。
咲羅は桜呂に連れられてよく花見の席へと招かれた。
「よ、ご両人!」
「若いっていいわねぇ」
精霊たちから祝福の言葉が飛び交う。
顔を赤くした咲羅を桜呂は愛しそうに見つめている。
『咲羅、こちらへ』
桜呂に招かれるまま、咲羅は宴会の席から少し離れた場所にむかう。
桜の木のてっぺんだった。
そこからは咲羅が住む町が一望できる。
暗い海に無数の光が瞬いていた。
「キレイ」
『でしょう?私は何度も此処に上り、いつかあなたが此処にくる日を待ち続けていました』
「桜呂…」
『喩えこの身が散ったとしても、私に悔いはないでしょう』
そんなことを言う桜呂を見つめていた咲羅だったが、不意に悪寒が走った。
儚げな桜呂の美貌が一瞬だけ霞んで見えたのだ。
慌てて桜呂の着物をつかむ。
『咲羅?』
「……いなく、ならないわよね?」
自分の口から出た言葉に桜呂は少し目を丸くするも、やがていつものように優しく微笑んだ。
『貴女を置いていく訳がありません』
「そう…」
離そうとした手をつかまれる。
声をあげるまもなく、咲羅は桜呂に口付けられていた。
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