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「その多賀谷さんはどうしてる?」
「先週かな……下校中に事故って入院してんだ」
「そうか……」
多賀谷柚月(たがやゆづき)は、動物好きな気さくな少女である。
「女子バスケ部の期待の新人でさ、あんま話したことねーけど、いいヤツなんだよ」
暁は、三年生を送る会の演目で盛り上がった時の柚月の笑い顔を思い出していた。
お笑い芸人の好みが合い、軽くネタまで一緒にやっていたので。
『こいつに芸人ネタなんかふれないよ~』
今は同性である希沙夜と話すほうが妙に緊張してしまうと、暁は改めて自覚した。
『お前のほうが女の子らしいって言ったら、めっちゃ怒るだろーなぁ』
生まれた時から異形変していて、男として育っている希沙夜だ。
女の子扱いすればツヤツヤの黒髪を逆立てて、怒る可能性が高い。
『でもやっぱり可愛い』
「多賀谷さんが休むようになってから特に激しく『屋敷』が暴れだしたようだな」
ツヤツヤ毛並みの子猫が、振り向いてまた、ジロリ。
「なっ、なんだっ?」
「着いたぞ」
ふわふわしながら気取って歩く子猫の後ろ姿を見ていたら、もう例の屋敷の屋根が木々の向こうに見えていた。
「え~!さっきから五分も歩いてないって。雪原さんちってさ、電車乗り換えて一時間近い駅からまた歩くってはずだろ?」
「だから言ったろうが。ショートカットができる便利な道なんだと。あの光へ飛び込むんだ」
黒猫が、片足をあげて木々の狭間で揺らぐ光へ向ける。
「それ木洩れ日じゃねーの?」
「あれが出入り口なんだ」
トっと跳ね、希沙夜がその光の元へゆく。その後を追い、駆け寄った暁が好奇心いっぱいに手を伸ばすと、白と金に輝く揺らぎが大きさを増し、二人を包み込んだ。
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