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「みゃあ」
「これ開けって?相変わらずマイペースだな、希沙夜ちゃんは」
「って、なんでこの猫が希沙夜だってわかるんすか?」
「視えるんだよ、オレらはさ」
こくりと、黒猫が頷いた。
開かれたパソコン画面を前に希沙夜がピンと背筋を伸ばす。奥田もそれを注視した。
なぜか居心地が悪くなり、暁は窓の外へ視線を移す。そこでは飛礫がようやく止みはしたが、もわもわと重そうな煙が豪奢な門から吹き出て辺りを黒く荒い粒子で隠していく。
先ほど暁達が現出したのは、その門前らしい。
「あれ、が……障気ってヤツ?」
「正解」
奥田がメガネを人差し指で上げて笑む。
「屋敷の周囲のが、中心より障気が濃いってか……妙だよ。な?希沙夜ちゃん」
「うみゅ」
黒猫がつんとして、てん、と無造作に座席に積まれていた資料の上へ前足を置く。
「えっと、これを読めってのか?希沙夜」
「みゃう」
大きく頷くのが可愛いくて、鼻先をつついてやりたくなるが、後が怖すぎて暁は止めておいた。資料は過去に起きた事件の記録である。
「強い生体磁気、の反応があり……って、どゆ意味?」
「生き霊だって意味だよ。生体磁気はオーラとか、生きてる人間の気配が検出されたんだ」
「にゃあん」「そん時の記録まで、全部覚えてんのか?」
「にゃ!」
少し得意げな黒猫をもにもにしてやりたい衝動に駆られるが。
「人を拒否してる家には、なんか見えないんすけど」
「う~ん……」
ぐるりと巡らされた緑の生け垣は、上品に刈り込まれて温かみすら感じさせている。広々とした屋敷を囲む障気へも、なぜか嫌悪感が湧かない。
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