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「春ってトートツにくるんだなぁ」
卒業式も間近い、穏やかな日。
高校一年生の日鷹暁(ひだかさとる)は昼食をとりに入った生徒会室の窓から、透き通る青空を見上げて欠伸をした。
それはピンクの風に少しだけ、けぶって見える。
遠くから、騒ぐ声や廊下を行き交う足音が響いてきた。
「生徒会長さ~ん、部外者が侵入して待ちくたびれてますよ~っつの」
生徒会役員でもない彼にそんな勝手を許している会長の天宮希沙夜(あまみやきさや)は、いまだそこに現れない。
「あんだよー!腹へって死にそうだよお!きーさーやー!」
時間に正確無比な生真面目美少年の名を呼んでも、応えるのは遠い鳥の声ばかり。
茶髪をかきむしり、食堂へサッカーにより鍛えた駿足で暁が走り出そうとドアを開けたその時。パタパタと耳慣れた足音が駆けてきた。
思わずドアを全開にし、暁が叫ぶ。
「希沙夜~!メシ~!」
「暁、すまない。調子が少し……それと、依頼の連絡を受けていて手間取った」
「え?依頼!行くっ!」
飛び出しかけて獰猛な鳴き声に、精悍な茶髪の少年がへたり込む。
「暁……大変な腹の虫の声だな」
「……ああ。待ちくたびれて……死ぬ……」
「依頼をこなす前に死んでもらっては困る」
含み笑いの希沙夜が、長めの艶やかな黒髪をかきあげて手提げから重箱の包みを出して見せた。
「食べながら打ち合わせしよう。今回は先輩の呪禁師達を病院送りにした強敵の家だ」
「ごっついお化け屋敷か?」
「簡単に言えばそうだな」
指をバキバキ鳴らしつつ、暁が希沙夜を向かい合わせにした席へエスコートした。ガタガタと椅子を引いてやれば、長身の少年は優雅にそれふ座る。
本来ならば同性にはそんな真似を間違ってもしない暁だが、希沙夜は特別なので。
『こいつ、異形変(いぎょうへん)してるけど、ホントは女の子だからなぁ』
それを思い出すと、いろいろにやけてしまい、向かいの少年の灰翠がかった瞳に睨まれてしまった。
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