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古びた机に載せられた白と紫の風呂敷から、いつもの朱塗りの重箱が現れる。白く繊細な手が魔法のごとくそれを開いてゆくのを、ワクワクと見つめるのが暁の日課。
希沙夜が広げる箱の中身は本当に宝石みたいだと、とあるグルメレポーターのように暁は思う。
この豪華弁当のおかげで、無機質な生徒会室が料亭に変わるのだ。
少年がいつものように手を合わせて「いただきます!」と唱え、箸箱から黒光りする塗り箸をとった。希沙夜も赤い箸をとり、小さく唱える。
茶髪の元気少年は、ふっくらツヤツヤの玉子焼きを頬張り、唐揚げも箸で摘んでさらに口へ押し込みながら、「うめ~!」と叫ぶ。そしてさらにご飯を口いっぱいにかっこんだ。
「そんなに急がなくても、お化け屋敷は逃げはしないぞ」
「れないろ、おまへにまへふ」
優雅な箸技でほうれん草の胡麻和えを口に運んでいる希沙夜は、実は超絶早食い少年なのだ。ほんのちょっと目を離すと、もう半分は平らげている。
ポットのお茶を思い切り飲み込み、ぷはぁと暁は息を吐いた。
「……で、先輩さん達がやられたって、誰が?」
「奥田さんや富樫さん達だ。あの凄まじい雷撃主体の人達がその屋敷の敷地内にも入れなかったそうだ」
「えー!力押し技がダメだったら、俺なんかどーすんの?役立たずじゃん!今回はパス!」
「でもぼくのアシスタントだろう?一緒に来てくれるな」
笑顔で淡々と語る『パートナー』に、暁は両手を上げて頷くしかない。
『こいつが女の子じゃなきゃ、ぜってー断ってんだけど』
目の前で花のごとく咲く艶やかな少年の正体を、偶然知ってしまったのをほんの少しだけ後悔する。
『あん時、俺もテンパってたからなぁ』
出会いは加速装置付きであった。
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