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「俺らんとこに依頼回ってきたのって、俺の経験があるから?」
「たぶんそうだ。屋敷自体にとり憑いたものがいるんだろう」
デザートの大きな苺をわしっと手掴みし、暁がはぐはぐと噛みしめる。
「中に囚われてる人、いんのかな……」
呟く彼の瞳が輝きを増す。
「お前は化け物に囚われていても、その生命力を失わなかった。カガセオとしての素質をぼくは見込んでいる」
「んだからアシスタントにしてくれたんだよな?ミカン干しさん」
「ミ・カ・ボ・シ!」
彼らは『隠国』と呼ばれる神霊や妖怪などが棲む異世界と、それに重なる現世ーー『陽国(あけらく)』を結び守る者。
彼らは呪禁師と呼ばれ、能力傾向により2種類に分けられる。破壊メインのカガセオと、浄化力が高いミカボシとが存在するのだ。
「さーて、行こうか……どうした?」
パソコンをしまおうとした希沙夜が、口許を抑えている。
「なんだ?焦って食べるからだぞ」
「ちがっ……今朝から調子がおかしくっ……」
しなやかな長身を痙攣させ、必死にくしゃみを抑えているらしい。机に突っ伏しかけるから、背中を撫でてやろうと暁が立ち上がった。
「だいじょぶ……だ……」
「なんだよ、くしゃみくらい……」
普段は颯爽としている希沙夜が、背を丸めて苦しんでいる。
それがなんだかいじらしくて、暁は鼻息荒く背をガシガシと撫であげる。
「くしゅっ」
「って、ええっ?!」
小さなくしゃみのあと、骨ばった背中の感触が掌から消えた。バランスを崩し危うく床へ倒れそうになるのを、机に手をつき必死に踏みとどまる。
「きさっ……希沙夜?」
机を見回し、視線を先ほどまで生徒会長が座っていた席へ移した。
そこにありえない物体があるのを確認し、おちゃらけサッカー小僧は息を呑む。
脱ぎ去られ、こんもりと椅子にのっている制服の中。
「……猫?」
「みゃあ」
恥じらい、暁の視線を避ける黒い毛皮の子猫は、灰翠がかった瞳をしていた。
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