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かくりと肩をおとしため息を吐いた黒猫は、意を決して勢いよく机に飛び乗り、パソコンのキーボードを叩き始めて。
「き、希沙夜?」
画面に浮かび上がったテキストウィンドウには、『そうだ。ぼくだ。』と打ち込まれている。
ガタガタと椅子をどけ、暁は画面と黒猫を何度も見比べてしまう。
「おま……なんで猫に……ミカボシの特殊能力?」
器用に2本の前足を使い、『これは能力ではない。原因はぼくにも父にもわからなかった。異形変の影響は間違いなくあるが。』と書き込み、黒猫は鼻を鳴らした。
「今朝から調子わりいって、今朝も猫に?」
コクリと黒猫が首を上下させる。
「それ、隠国庁にも報告したのか?」
『依頼が来た時、猫だったから』
キーボードに倒れふし、黒猫の希沙夜がまたため息。
『隠国庁』とは呪禁師達を統括する、国家を超えた機関だ。時空間や次元をも超えた『役所』だと、奥田や富樫らが教えてくれたのを、暁は思い出す。
「上のおっさんやおばさん達も、むちゃくちゃ驚いたろーな」
「みにゃ……」
猫が歯噛みしている珍しい様を見て、暁は噴き出した。
むくれたらしい黒猫の尻尾がぼわっと膨らむ。
それでもまだ笑っている暁へ飛びつき、筋肉が目立つ腕へ爪を立てた。「いでっ!こら、希沙夜!」
その灰色がかった瞳は『真面目にやれ』と主張している。
「わかったよ~!でもどーすんだ?猫状態で」
「にぃ」
ふわりと暁から降り、希沙夜はまたキーボードを叩く。
『依頼は今、東京にいるぼく達にしかこなせない。頼れる真昼野守幹は地方出張で青森だ。』
「まひるの……もりみきさん?そのおっさん強いのか?」
『真昼野ひなた守幹は女性だ。守幹(しゅかん)というのは、隠国庁内での役職名。』
凄まじい速さで説明が打ち出され、暁は口を開けっ放しで見ているしかない。
『だからぼくを連れていってくれ。頼む』
黒猫に頭を下げられ、暁は頭をかいた。頼れられるのが嬉しくて、でも照れを見られたくなくて。
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