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黒猫が、くねくねと曲がる小道を片足で指す。
「この道を通って行き来すれば、時間を超えて元の時間に戻ることができる」
「ってことは……」
四季の花々が咲き乱れ、不思議な獣達の歌声が降りくる。
「ここは時間を超えた空間だ」
滴る緑の中、先導していた長めの尻尾が揺れて応えた。
「あちらで数時間、いや数日過ごしても、今日の昼休みの時間へ戻れば大丈夫だ」
「すげーっ!どこでもドア+タイムマシンじゃん」
「だから、それはなんの名称だ?タイムマシンは知っているが」
「知らねーのかよお」
暁は少し呆れた。国民的人気マンガのネタをふっても、希沙夜は知らないらしいので。
「箱入り息子みたいって母さんが言ってたけど、マジだよ」
黒猫はさらにつーんと顔を逸らし、とてとてと小道を行く。
「雪原邸は数ヶ月前まで動物好きで資産家の老婦人が住んでいたんだ。広い屋敷の中には拾われたたくさんの動物達がいたが、不思議なことに、お手伝いさんもいないのに大変清潔に保たれていたそうだ」
「ふーん」
説明しながら揺れる尻尾が可愛くて屈んで触ってみたくなるが、灰翠がかった瞳が睨めてきて、暁はそのたび直立していた。
道は子猫にも歩きやすく整えられている。
「親族をほとんど寄せ付けなかったそうだが、唯一孫娘だけはよく遊びに行っていたらしい」
そう黒猫が言うと、小さな影の中から件の少女のイメージが浮かび上がる。
「なっ!いきなりヴァーチャル?」
「だから、ぼくの考えが視えるんだよ、この世界では」
「へーっ!って、この子、クラスメートの多賀谷だよ」
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