お母さんと曖昧な記憶

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さらに数年後、女の子が高校を卒業した後。 今度は遊びに来られないほど遠くの町に行くらしい。 その春女の子は最後に教えてくれた。 あの頃いつも夜遅く出ていったお母さんは、スナックで働きながら、新しいお父さんを探していたらしい。 一緒に兄妹を養ってくれるお父さんを。 一人立ちする年になって、今までを振り返った時、あの頃お母さんは身を粉にして働いて、兄妹を育ててくれていたとわかった。 ボロボロになって働いて、それでも弱さを一切見せず子供達と遊んだり、一緒に出掛けたりしてくれた。 今でも、夢を追いかけたい女の子の為に、定年間近で転職してまで働いている。 お母さんは楽しかったのか、女の子は不安だという。二十二で姉を生んでから、ずっと育児と仕事をこなしてきた。 こうしたかった、あぁしたかった、コレが欲しかった、あそこに行きたかった。 常に子供達ばかりで自分は後回しで、本当にやりたいことや楽しいことが出来ているのか、出来たのか、それを奪い続けているのは自分達ではないか、怖くて聞けない。 そう思いながらもやはり夢は諦められなくて、また迷惑をかけている。それしか出来ない自分が情けなくて、なんにも恩返しが出来ないまま、もしものことを考えると泣き出しそうになると。 そのまま女の子は旅立っていったけれど、あのお母さんを見てきた木は考えた。 この世で唯一絶対で無償のものがあるとするなら、それは母親の愛情ではないだろうか。 我が子を産むことを決めたときから、苦しむことくらいの予想は出来たはず。 それでも彼女はいつもいつも兄妹のために必死で働き、育て守ってきた。愛が無ければ出来ないし、子供を想えばこそ、色んなことを頑張れたのではないか… だって、木は聞いたことがある。 何時だったか近所の奥さんに女の子のことを話していたのを。 確かに、言っていた。 とても穏やかに 優しい子に育ってくれて……と。  
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