お母さんと曖昧な記憶

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その女性は毎朝早く子供達を保育園に送っていく。 車を横付けにして、お兄ちゃんと妹を車から下ろし、ハンカチで口元を吹いてやって送り出す。 二人が保育園に入って行くと、車に乗って仕事へ向かう。 妹は毎日延長保育。 お兄ちゃんは恥ずかしいのか、勝手に一人で帰ってしまう。 夕方、お母さんと帰っていく友達を見ながら、いつも最後に一人残って待っていた。 七時を回った頃、やっとお母さんが迎えに来てくれる。女の子は笑顔で保育園の鞄を持ってお母さんと帰っていく。 お兄ちゃんと三人で夕食を食べると、お母さんは二人を寝かしつけて、また仕事に出て行く。 帰って来るのは夜もすっかり遅くなった頃。 兄妹にはお父さんがいない。 女の子が生まれる前に、お父さんは居なくなった。 たまに、二人はお父さんに会いに行く。 女の子は特にまだ二歳で、お父さんのことなんて殆ど覚えて居なくて、会える日をいつも楽しみにしてた。 小さな女の子にはまだお母さんとお父さんの詳しい話は知らなかった。 ただお父さんはいつも優しくて兄妹を可愛がってくれたし、お母さんとだって仲良くしてたと思う。 女の子が知っているのは、お父さんは自分のお店を持っていて、お母さんと【りこん】してしまったから一緒には暮らせないということ。 お父さんが一緒に住んでいなくても、会いに行けるし、お父さんはたまにやって来ては女の子をドライブに連れていってくれた。 それにお母さんは日曜日になると近くの動物園や遊園地に連れていってくれた。 女の子は毎日楽しく、すくすく育っていった。  
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