どうした爺さん!

2/13
715人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
  平日の朝、起きてリビングに降りて行くと、キッチンにいた母が鍋の蓋を持ったままやってきた。     『ねぇ、お爺ちゃんの様子が変なのよ』   『死にそう?』   『バカ! 元気よ。なんていうの? いつもと違うって言うのかしら……』   そう言って母がキッチンの向こうの洗面所に目をやる。   そうっと近付くと、なんの歌だか解らないが、鼻歌が聞こえてきた。   まぎれもなくその声の持ち主は祖父。     『相変わらず下手くそだなぁ……』   祖父は音痴だ。音程が微妙にズレている。   なんの歌か解りそうで解らない事に、聞いているこっちはイラッとくる事があるくらいだ。   調子づいている時は鼻歌ではなく歌う。   祖父の歌はわが家で《公害》と呼んでいた。     祖父は洗顔後の顔に、洗面所にある父の男性化粧品をつけていた。   そして、もう殆ど抜け落ちて寂しくなっている頭にドライヤーを当てる。     新しい健康法?     頭のてっぺんにフワフワと浮遊する産毛のような髪に、やはり洗面所にあった弟の整髪料を……、    『お爺ちゃん! ちょっとそれワックスだよ。髪につけるやつだよ。何処に付ける気?』   洗面所に飛び込んだアタシに、祖父はニッと笑って浮遊する髪を指差した。  
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!