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『この女性を知らないか?』
マフィア(風の男)は単刀直入に言い、一枚の写真を見せる。
そこには黒の袖無しタートルネックを着た少女が写っていた。
瞳は漆黒で、腰ほどまである黒髪は無造作に束ねてある。
写真は腰上までしか写っていないので分からないが、全体としてはカメラに背を向けて走っている感じだ。
何かの記念写真にしては顔が少しも笑っていない上、体は詰めの甘いCGで修正されているようにも見える。
なんて怪しい写真を見せてくるんだろう。
コイツは馬鹿なのか?
『随分とかわいー女性ですね。家出少女かなんかですか?』
呑気に写真に対して感想を言うと、【マフィア風】は知らないのならいい、と言ってさっさと他の人の所へ行こうとした。
その時、ぶわっと埃が飛び散った。マフィア風が丁度進行方向にあったちりとりを踏んづけたのだ。
『わわっ!?ス、スイマセン!!』
ユウは焦って素早くスーツに付いた埃を払い落としていく。
マフィア風は焦ったように、
『もういいから触るな!!』
とユウの手を払いのけて足早に去っていき、行き交う人々に写真を見せながら同じ質問を繰り返していく。
周りをよく見ると何人もの男達が同じ事をしていた。
ユウはもう一度伸びをした後、早歩きで店内の厨房へ向かった。
『オォ、どうだった?』
厨房ではおやっさんが調理器具を片付けていた。
余ってしまった味噌汁の匂いが厨房内にたちこめている。
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