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尖った刃物で胸を刺されて殺された事件である。
「あーアレか。でも五月の〈予定日〉には誰もやられなかったんだろ?」
一時はかなり騒がれたが最後の殺人から二月が経った今、あまり人々の話題に上ることはなくなっていた。
「ついでに言うと六月の〈予定日〉は一昨日と昨日だったのよね。でもなんにも起こんなかったし。だから『大したことない』ってね」
「きっとこの二月は犯人の都合が悪かったんですよ」
幹雄は桐子を慰めるようにとんでもないことを言う。
「でも快楽殺人犯は自分の決めたルールに従おうとするもんなんだけどね。だって四月までは一月に一人ずつきちんと犯行を……」
桐子はそこで急に口を止めると、隣に座っている友也に視線を向けた。
「な、なんすか?」
「ほら、ゆう君。昔、月一の事件ていうシチュエーションがあったでしょ?」
さあ……。
と答えようとした友也の一瞬先に幹雄が尋ねた。
「部長、その〈昔〉っていつの話なんですか?」
「中学の時だから……ひのふの……五年前。……これでも思い出さない?」
桐子は幹雄と友也のそれぞれに言った。
記憶の引き出しを片っ端からひっくり返した友也の脳裏に久しぶりにその名が浮かんだ。
「……あ……そうか、音羽涼か……」
「でしょ?」
「……ですね」
「――って、二人で納得してないでぼくにも説明して下さいよぉ……」
幹雄は二人の様子を見て膨れっ面をした。
「だってさ」
と桐子は隣の友也の二の腕をぽんと叩く。
「へっ?オレに振るんすか?」
「だって目撃者はキミだけだったでしょ?」
「宇野さんも少し見てたじゃないすか」
「それはそうだけどさ……」
などという二人のやり取りに痺れを切らした幹雄は早く話を始めさせようとした。
「――でその音坂涼っていう人は何者なんです?」
「うー、どこから話したもんかな……」
「お好きなように。変な所があったらわたしが茶々入れるから」
そう言うと桐子は席を立ち、幹雄と席を替わった。二人の目が友也の顔に集まると、彼はそれを避けるようにして話し出した。
「五年前、宇野さんとオレは同じ中学に通っていた――」
「――というわけで九月に行われる、文化発表会の出し物は天体観測ということで。とりあえず明日から始めるから」
友也は誰も反論しないのを見て取る
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