第一章

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のことを考えていた。  明日は日曜だし、一実が帰ってきたらさっさと終わりにしよ。 「ふぁーあ」  と友也が再び大きなあくびをした時、彼の目は林の奥で何かが光るのをとらえた。  宇野桐子はほとんど真っ暗な夜道を自転車のライト一つで進んでいた。六月も終わりに近づき、蛙の合唱も日毎勢いを増していた。  本人の意思とは無関係にお嬢様である桐子はピアノを習っていた。彼女はそれがいかにもらしくて好きではなかったが、まあ許容範囲ということで文句は言わなかった。  つい先ほどまでピアノの稽古が隣町であり、その帰り道だった。同じ講師に習う人達は桐子同様ハイクラスな子供が多く、車で送り迎えというのが当たり前だった。そんな中で桐子が自転車で通っているのは彼女なりのささやかな反抗――というわけでは全くなかった。  個性の均一化をもってその機能を果たす学校という場において、お金持ち、あるいはお嬢様、という〈個性〉は何かと気苦労が絶えなかった。妬まれず何事もなく暮らしていくのは大変なことだったのだ。しかし、桐子はその努力を早々と放棄していた。ピアノに自転車で通うのもクラスの目を気にしているのではなく、ただ、夜に自転車で走ると気持イイ、程度の行動だった。  クラスでは孤立し、陰口を叩かれることも多かったが彼女は何とかやっていた。別段と実害はなかったからだ。  学校なんてこんなもんでしょ。  彼女は常々そう思っていた。学校には何も期待してはいなかったのだ。  そんなことを考えながら桐子は自転車をこいでいた。隣町から家に帰るにはもっと明るく広い道もあったが、中学校と林を挟んだこの道を通った方が近道だった。学校の窓に幾つか光が灯っているのを目にすると桐子はスピードを緩めた。  その時、何気なく目を向けた林の奥で何かが光っているのに気付いた。  彼女は思わずブレーキをかけた。  なんだ、今の光は。  好奇心は人並みだった友也は、とりあえず天体望遠鏡を手すりの所まで持ってきた。そしてカメラを外し、先ほどの所にレンズを向けた。その光はちらちらと瞬いているようだった。  誰かが火を燃やした。どうやらたき火のようだった。その火の回りに人が何人か……一、二……五、六。六人いる。友也は六人目の人物をレンズに捉えた時、思いがけずピントを合わせる手を止めた。
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