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友也が普段接していても単なる、ちょっと変わった女の人、にしか感じられなかった。
この場合の〈変わった〉という修飾語は外見のことではない。彼女は有り体に言って美人である。それも至極正統派の。プロポーションは言うに及ばず、身長も友也と変わらないくらいだから一七〇センチは確実で、長い髪に整った顔、つんと澄ました切れ長の目。けちのつけようがなかった。強いて言えば服装が地味なくらいで、友也はジーパンにトレーナー程度しかお目にかかったことがなかった。
しかし、彼女に関しての問題はもっと内面にひそんでいた。
「わたしは部室で本を読んだり世間話をするためにサークルを作ったんじゃないんだけどね」
桐子は再びため息混じりに呟いた。「あーあ、犯罪心理学研究会の名が泣くわ」
と体を起こして言った彼女に友也が言い聞かせる。
「心理学科に入ったからって後先考えずにそんなサークル作るからですよ」
「ま、いずれ講義でやるんじゃない?グチはそのくらいにしてそろそろ行きましょ、副部長さん」
「……」
友也は自分のポストを再認識させられ、口を閉ざした。
むりやり決めたくせに……。
桐子は友也を促して講義室を出た。二人は白いリノリウムの廊下を通り、講義棟からサークル棟に向かっていった。
私立栄羽大学は千葉県との県境にほど近い埋め立て地にある。正確には栄羽学園大学部が、である。学園の中に、大学、高等部、中等部、初等部、果ては幼稚舎まである。〈学園〉の名が示す通り良家の子女が多く通う名門である。もともとは幼稚舎から高等部までが神奈川にあったが、この埋め立て地ができたときここに移ってきたのだった。
埋め立て地の名は春巻島という。誰がつけたか定かではないがそれで通っている。完全に周りを海に囲まれているわけではないが、陸地からポッと飛び出たように造られているから島と呼ばれても不思議はない。その春巻島に進出するさいに学園は新たに大学部を設置し、広く一般から学生を求めた。そのため桐子とは違いごくごく庶民の友也にも門が開けたのだった。
人工島の割には緑が多い学園の敷地をしばらく歩き、二人はサークル棟に着いた。通称〈サークル長屋〉と呼ばれるこの平屋の建物は大学部設置と同時に造られたが、どうも予定外だったらしくあまり予算がかけられていなかった。そのため夏は暑く冬は寒いと生徒
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