出る便所

5/6
前へ
/88ページ
次へ
「はぁぁ・・・。」 決して、オヤジが言ってた事を忘れたわけではない。 放尿の快感が、気を緩ませたのだろう。いつものクセが、出てしまった。 Uには、放尿中「はぁぁ」と息を吐きながら、うっとりと見上げてしまうクセがあった。 便器から目を離した事に気付き、「あっ、しまった!」と思ったその時。 まどろむ瞳に何かが、映った。 青白いモノ。 女の顔? Uは、「管理所のオヤジが、驚かせる為に、天井にお面を貼り付けたのか??」と思った。 が、その時、青白い“女の顔”の閉じていた目蓋は開き、ニタニタと笑った。 「あが、あが」 悲鳴をあげたい、なのに口は開いても、悲鳴が喉に詰まり口から外に出てこない。 尿が止まらない! でもジャージを上げなきゃ! そして逃げなきゃ! 右手はジャージを持ち、左手は引き戸にかけた。 「今だ、逃げろ!」と思った矢先、Uの見開いた目と青白い“女の顔”の白内障のような濁った灰色の瞳と目が合ってしまった。 「あっ」 0コンマ何秒の空白。 いきなり、青白い“女の顔”が、ところてんを押し出すように、どぅるぅんと垂れ落ちてきた。 Uの視界を青白い“女の顔”が塞ぐ。 Uの喉を塞いでいた悲鳴は、固形物のように吐き出され、左手は渾身の力で引き戸を開いた。 「あがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 Uは、獣のような悲鳴を上げながら便所から勢いよく飛び出した。 しかし、ジャージとパンツが膝の動きを封じ足が前に出ない。 Uは、そのまま高台を転げ落ちた。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

417人が本棚に入れています
本棚に追加