四十路たちの日常

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―――馬桜が戦っているのと同じ頃、城内の執務室 ここでは馬景が費筆以下の者どもと仕事をしていた。 彼らの仕事も文書の整理だが、机の上には「これでもかっ!」というくらいの量の書類や竹簡が山のようにそびえ立っている。 その原因は…… 「まったく…片付けても片付けても切りがないぞ、楊諮よ?」 費筆が半ば楊諮を馬鹿にするように愚痴を言った。 「ぐ…悪かったな! わしの仕事が遅いせいで手伝わしてしまって!」 楊諮である。 前にも言ったが、彼は軍師でありながら兵法が苦手である。 理由は彼曰く、「習うより慣れろ」との事。 つまり『兵法は頭で理解するより、実戦を見たほうが早い』という意味だ。 が、それは単なる言い訳。 裏を返せば、彼はただ単に『机に座って文字を見るのが大嫌い』、というか彼は活動的な質であり、一定の動きしかしない作業は昔から苦手だったのだ。 「じゃあ何故軍師になったんだ?」という疑問が出て来る。 それは馬景がこの西涼に赴任して来た当時、内政担当の文官と軍師が少なかったために募集の立て札を出した。 それを見た楊諮は「軍師も実際に戦場で戦うものだ」と勘違いして応募し、見事採用されたのだ。 存外馬鹿な男だ。 それらの理由が相重なって、文字を見る書類整理はいつも遅かった。
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