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「あぁ…まったく、兄より先に逝きおって……。」
馬景も同じように空を見上げた。
その目はとても悲しそうであった。
「亡くなられたのは、今のように暖かい春でしたね…。」
「あぁ。
脩の奴、人手不足を気遣い病を押して戦に出おって……帰って来た途端死んでしもうたわ…。」
馬景の声は震えていた。
十年経った今でも、弟の事を思い出すのは辛い。
馬景は知より勇に優れ、馬脩はその逆だった。
兄と弟がお互いの足りない部分を補い合い、いつも試練に打ち勝ってきた。
その弟が死んだ時の馬景の悲しみは計り知れなかった。
そんな馬景を気遣ってか、費筆が慰めるような言葉をかける。
「殿。
私はあの方の最期は、あの方の本望だったと思いまする。」
「? 何故だ?」
「あの方が亡くなられた時のお顔はとても満足そうでした。
将として最後まで戦場に立ち、一人の人間…いや、親として馬発様のために生きて帰って来られて…。
今となっては本当の事は分かりませぬ。しかし、私はあれがあの方らしい最期だったと思います。」
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