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「あの~秋山さん。
背中のリュックは、
リフトに乗る時、邪魔にはなりませんか?」
品のいい 白髪混じりの女性が、
おずおずと、美夏を覗き込み、
不安げに声をかけてきた。
「そうですね。
ご心配なら…
私が、お預かりしますよ。
貴重品などは、入ってらっしゃらないですか?」
玉原のリフトは、案外椅子が小さい。
背中に、リュックをしょってでは、
確かに、座りが悪く
前傾姿勢になるかもしれない。
かといって、
手に、リュックを持って、リフトに乗り込む事が、不安になったのだろう。
リフトのスピードも、観光客を乗せるには、少し早い気がする。
玉原は、スキーで有名な場所で、
スキー客の、回転をよくする為にも、
短い時間で、頂上に上がるように、設定がされているらしい。
冬の、スキーシーズンが過ぎると、
当たり一面に、季節の花が咲き乱れるのを利用して、
高齢者や、家族連れ対象の、ハイキングコースや、アスレチックスなどを作り、観光客を集めている。
美夏は、女性の名前を確認してから、荷物を預かった。
大きな声で、客をリフト乗り場の前へ、誘導する。
「皆さ~ん!
今から、リフトに乗って頂上へと参ります。
リフトが、頂上へ着いた所で、
(降りて下さい)
という、案内のテープの声が、聞こえましたら
慌てずゆっくりと、椅子から立ち上がって、右側へ歩き出して下さい。
私が、先に上がりまして、降り口におりますので
、くれぐれも、慌てずゆっくり、リフトから、下りてください」
不安そうな声が、
あちこちから聞こえる。
美夏は、聞こえないふりをして、
リフトの、最前列に向かう。
再度、振り返って
再び、大きな声をだす。
「リフトの乗り口にも、
降り口にも、
係員の方が、いらっしゃいますので、
ご安心下さい」
まだ、十代だろうか?
若い係員は、面倒な顔を露骨に出した。
美夏は、後はよろしく。
と
笑顔で、係員の少年に、両手を合わせて、
リフトに腰をかけた。
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