4/10
前へ
/139ページ
次へ
「あの~秋山さん。 背中のリュックは、 リフトに乗る時、邪魔にはなりませんか?」 品のいい 白髪混じりの女性が、 おずおずと、美夏を覗き込み、 不安げに声をかけてきた。 「そうですね。 ご心配なら… 私が、お預かりしますよ。 貴重品などは、入ってらっしゃらないですか?」 玉原のリフトは、案外椅子が小さい。 背中に、リュックをしょってでは、 確かに、座りが悪く 前傾姿勢になるかもしれない。 かといって、 手に、リュックを持って、リフトに乗り込む事が、不安になったのだろう。 リフトのスピードも、観光客を乗せるには、少し早い気がする。 玉原は、スキーで有名な場所で、 スキー客の、回転をよくする為にも、 短い時間で、頂上に上がるように、設定がされているらしい。 冬の、スキーシーズンが過ぎると、 当たり一面に、季節の花が咲き乱れるのを利用して、 高齢者や、家族連れ対象の、ハイキングコースや、アスレチックスなどを作り、観光客を集めている。 美夏は、女性の名前を確認してから、荷物を預かった。 大きな声で、客をリフト乗り場の前へ、誘導する。 「皆さ~ん! 今から、リフトに乗って頂上へと参ります。 リフトが、頂上へ着いた所で、 (降りて下さい) という、案内のテープの声が、聞こえましたら 慌てずゆっくりと、椅子から立ち上がって、右側へ歩き出して下さい。 私が、先に上がりまして、降り口におりますので 、くれぐれも、慌てずゆっくり、リフトから、下りてください」 不安そうな声が、 あちこちから聞こえる。 美夏は、聞こえないふりをして、 リフトの、最前列に向かう。 再度、振り返って 再び、大きな声をだす。 「リフトの乗り口にも、 降り口にも、 係員の方が、いらっしゃいますので、 ご安心下さい」 まだ、十代だろうか? 若い係員は、面倒な顔を露骨に出した。 美夏は、後はよろしく。 と 笑顔で、係員の少年に、両手を合わせて、 リフトに腰をかけた。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

647人が本棚に入れています
本棚に追加