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車窓から見える街並みが電車のスピードに合わせて流れていく 暗い窓に映る自分の顔がいつもより年老いた しわだらけの老婆に見えた 秋子は、深いため息をつき窓に映る自分の顔が見えないように窓ガラスに背にを向けた… 家族で行った玉原スキー場に 父ともう一度出かけた事 その時、父の知人に会うために あの病院に行ったのはもう五十年以上前の事だった。 子供達から、 玉原のバス旅行を勧められて 気のすすまない日帰り旅行に 秋子が重い腰をあげたのも 家族で滑ったスキー場… 父と二人で行った旅行… 思い出深い場所に もう一度行ってみたかった事もある 一年前に先立った秋子の夫は、本当に優しい人だった… 父達也を一人残して、自分のところに嫁いで来てくれた秋子に お父さんを大事にしようと言ってくれた その言葉通り、達也が亡くなる最後まで 父達也を本当に大切にしてくれた 子供達を連れた家族旅行にも 達也はいつも一緒だった 夫が仕事で休めない日が続くと 達也と秋子 二人分のチケットをとり親子二人での旅行にも、たくさん行かせてくれた 数え切れない程の、旅の思い出の中で あの時父と二人病院に立ち寄った事など、もうすっかり忘れていたのだ 2ヶ月前のツアーであの病院を見て 懐かしい思いがよぎったのも当然の事だった 今日倉木の話しを聞いて バラバラになっていたパズルのピースが五十年たった今 次々とぴったりと、はまっていくような気がした。 あの病院で会った父の友人の話し… あの時、父が会った子供達の事… 秋子が見た古ぼけた病院… そして… 二人の子供の幽霊 行かなければいけない気がした あの子供達に呼ばれているような気がして 締め付けられるような胸の苦しさを感じて 秋子はまた、車窓から見える流れる景色を見つめた
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