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秋子と別れて、晶子もまた一人考えていた。 誰もいないこのアパートに暮らし始めて、もう20年がたつ。 玄関を開けるとすぐに三畳程のキッチン その奥に六畳の和室がある 築40年以上たったこの木造アパートは、歩くだけでギシギシと床がなる 壁側に小さな鏡台と 背の低いたんすが並んで置いてある たんすの上には 古いブラウン管のテレビ 家具らしいものと言えばそれだけだ 電気をつける事すら忘れて 小さなコタツに秋子は座りこんでいた 子供の幽霊… まさか あの子たちがあの病院で 秋子と別れてから、何度も繰り返し同じ事を考えては打ち消した 刑務所を出て このアパートに住み、紹介されたレストランで働き始めた 賑やかな商店街を折れた裏通りにある小さなレストランだ オーナーは晶子の経歴を全て理解してくれていた しかし働いていた15年間の間 一言も晶子の過去に触れる事はなかった 実の妹のように大切にしてもらっていた 昼のまかないは勿論の事、夜9時に店を閉め 皿洗いを済まして帰る晶子に 毎日必ず弁当箱に夕飯を詰めて持たせてくれた 15年間 ただひたすらオーナーの気持ちを裏切らないように懸命に働いてきた
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