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今まではその能力と引き換えに、育った孤児院の同年代や社内の傭兵達から嫉妬や拒絶の眼差しを頂戴して来たのだから、正直、手放しで有り難い能力だと思った事は無い。だが、今は少し、この力に感謝している。
「いた……!!」
高速で視界を流れて行く眼下に、疾走する20名強の正規兵と、見慣れたシルエットがあった。故郷の民族衣装『ユカタ』なる服ををアレンジしたという盲縞の上着を靡かせ、走る少年。シロウ・ヤナギノシタである。
もしフィーネが『ウィザード』てなければ、きっと彼等に出会うことは無かったのだ。
石畳に着地点を見極めて、思いきり跳躍する。筋力と魔力を足先へ集中して、迫り来る石畳を力の限り受け止めると、少し向こうから髭面の小隊長を先頭に尖兵の一団が駆けてくるのが見えた。小隊長はすぐにフィーネに気付いたようだったが、後ろを走るシロウは何やら一般兵と雑談を交わしているらしく、
「巨乳っつわれてもなぁ、そんなにデカイの見たことねぇし、しっくりこねぇっつーか」
「おおっ? つーことは貧乳派? だはは、やっぱデカイのはダメだよな、品が無え」
「いや正直、胸はどうでもいい。一番大事なのは、脚だ!」
「あ、脚だとっ!? まさかその年で絶対領域を理解しているのかっ!?」
まだかなり距離があるというのに、こんな会話がはっきりと聞こえて来るとは何事だろう。瓦解した緊張感の欠片が頬の辺りに引っ掛かって、フィーネの口元を歪めた。さっきまで感じていた頼もしさはきっと、束の間ヒロイックな気分に酔って錯覚した幻想に違い無い。
「いや、脚はさ、こう、スラリと細くて引き締まってるのがいいよな。あれだ、競争馬みたいのが!」
「戦場で何を話してるんだこの馬鹿ぁーーーっ!!」
「おぶうっ!?」
気がつくとフィーネは、走ってくるシロウへドロップキックをかましていた。突然、文字通り飛んできた小柄な少女の登場に、シロウと話していた兵士達がギョッとした表情で足を止める。ごろんごろんと転がったシロウがガバッと起き上がって、
「何しやがっ……!! って、うげっ、フィーネ!?」
「何、その顔は」
「いや、何でも……」
「まったく、戦場では集中を切らすなって、何回言ったら分かるんだキミはっ!!」
「いや、だってよぉ……」
「だってじゃない!!」
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