第7章 ウェスト・ロンディアの鐘

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  眉を吊り上げるフィーネに、首を竦めるシロウ。身長差のためか、端から見ると生意気な妹に良いように言われる兄のような構図である。 「がっはっは! 手厳しいな嬢ちゃん。うちの部隊長と気が合うんじゃねぇか?」 豪快な笑い声と共に、小隊長が割って入る。フィーネは溜め息をついて、困ったように振り返った。 「茶化さないで下さい。戦場で気を抜いて死んだ連中なら、あなたも嫌と言うほど見ているでしょう?」 しかし小隊長は気にも止めない様子で、また豪快な笑い声をあげる。 「まぁ、下ネタは若い男のアイデンティティーだからなぁ。ちったぁ多目に見てやるのが人情ってもんよ。それに、コイツらの嗅覚は無駄話程度で鈍りゃしねえ 」 髭面を不敵な笑みに変えて、小隊長が続けた。 「そんな事より、クリスの坊主から聞いてるぜ?」 副官を呼び捨ての坊主呼ばわりとは随分だが、この小隊長にはそれを納得させる程の風格が備わっている。 「何分、食い止めりゃいい?」 「10分です」 淀み無く、フィーネが答えた。 「その間、ボクに流れ弾が来ないように敵の注意を引き付けて下さい」 「ふむ、この人数なら、何とかなるか」 そこへ、一般兵のひとりが何やらそわそわしながら、 「隊長、やはり私は反対です!」 遠回しにフィーネの実力を疑うような発言にムッとしたのも束の間、 「彼女はまだ幼い! 我々が命を懸けて守るべき未来! 『幼女』です!!」 「誰が幼女だぁっ!!」 後ろで、シロウの大笑いが聞こえた。だがすぐに、振り返ったフィーネの眼光に首を竦める。 「あのね、ボクは18だっ!! 言っとくけど、実戦経験は一般兵のキミなんかよりずっと豊富だからね!!」 鋭い剣幕で怯ませようと言ったつもりだったが、その一般兵はどういうわけか活と目を見開き、異様な光を湛えて身を乗り出した。 「なっ、18!? 大人幼女だとっ!?」 「大人幼女って何だよ」 軽く突っ込む別の兵士の声など、フィーネの耳に入らなかった。向けられたことの無い不気味な眼光に、思わず引き攣った笑みを浮かべ、後ずさる。 「し、しかも経験豊富だとっ!? 何という逸材だ!! もう死んでもいい!! フィーネさん、でしたか!?」 「そ、そうだけど……?」 「この戦いが終わったら結婚して下さい!!」
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