第7章 ウェスト・ロンディアの鐘

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  「……なっ……!?」 思考が追い付かないフィーネを尻目に、一拍置いた兵士達が大笑いを響かせる。何から何まで意味がわからなかったが、ひとつ言えるのは、 「もっ! もう、尖兵とか、大っ嫌いだっ!!」 男共の喧騒に紛れ、真っ赤な顔で叫んだフィーネだった。 だが、次の瞬間、である。 「おい危ねぇ!!」 笑い声を切り裂いたのは、シロウの叫び声だった。 フィーネの視界が一瞬にして紅に染まり、体に衝撃が走る。響く爆発音と共に脳随が激しく揺れ、暗転しかける意識を気力だけで何とか繋ぎ止める。 眩む頭を持ち上げ、目を開ける。石畳に倒れた体の上に、シロウが覆い被さっていた。鼻をくすぐる少年の香りを意識の外に追いやってから、その盲縞の肩越しに状況を確認する。 さっきまで立っていた辺り一面が、溶岩と化していた。飛び散った紅色が雨のごとく降り注ぐ中、シロウと同じく咄嗟に難を逃れた兵士が数名、その回りに倒れ込んでいる。何が起きたかは、言うまでも無い。 「……っ、だから、言わんこっちゃ無い!!」 絞り出すような声音で独り言ち、 「シロウ!! 生きてる!?」 覆い被さる少年の肩を揺さぶる。 「あぁ、どうにか……。くそ、痛ってぇー……」 シロウが頭を押さえながら、上体を起こした。彼が気付いて庇ってくれなければ、フィーネは今頃あのマグマの中である。骨盤から登ってくる戦慄を圧し殺して、シロウの下から這い出る。 「体勢を立て直す! いったん退くよ!」 向かいの家屋の上から、巨大な筐体が砲身をぶら下げていた。その非道な巨大兵器をきっと睨み、最大限の神経を研ぎ澄ませる。そこへ、 「がっはっは……! これは、やられたなぁ!!」 こんな状況ではもはや能天気と言える笑い声が響いた。見ると、立ち上がった小隊長が辺りの惨状を眺め回し、 「おい起きろ! 半分は死んだぞ、誰が生き残ってる!?」 すると、よろよろと立ち上がった兵士達が、次々と自らの名前をアナウンスした。 「マカフィー!」 「マルニ!」 他、計8名。そこに、先ほどフィーネへ求婚した兵士の姿は無かった。 「おい、グレースは?」 「あのロリコン、本当に死にやがった……!」  
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