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とは言え、東西およそ8キロにもなるウェスト・ロンディアの海岸線は、広い。いったい何処から敵が現れるか、さしものケントの第6感も頼りにならなかった。それどころか、こうして具体性が与えられる事で頭が冷え、感覚が全て5感へと落とし込まれて、それまで絶対に従うべき本能であった頭の熱が、急に疑わしくさえ感じられてしまう。
しかし、そこからは理詰めで場所を絞ることはできる。
わざわざ北東へウェスト・ロンディア軍の本隊を引っ張り出すのだから、あまり教会から離れた位置から迂回して侵攻する意味は薄い。北東へ現れた戦力か戦艦4ともなれば、こちらから上陸するのは高確率で少数精鋭であるから、複数にバラけて上陸する線も薄い。となれば、ある程度開けた場所から来る筈である。
教会から南東1キロ半の、入江。
クリスティアーノの指示で参謀長が割り出した敵軍上陸予想地点の水面を、ケントは今、全神経を研ぎ澄まして睨んでいた。立ち位置は、砂浜に聳える高い岩の上。何処から敵が現れようが、はっきり捉える事ができる視界を確保している。
バリイイィィ……ン!!!!
時おり遠くから響く、強化プラスチックでも割れるような乾いた轟音は、敵戦艦の砲撃が街の防御魔法陣に炸裂する音である。雷鳴が轟くように、パッと空を照らした光が少し遅れて質量の増した空気を震わせる。
どれくらい、そうしていただろうか。
鏡面のような水面へ浮かぶ星の光が、僅かに揺らめいた。鋭く目を見開いたケントの右手が、背中に背負った大剣の柄を強く握る。
『ケント君、聞こえるか、こちらクリスティアーノ・マヨルカだ!!』
切迫した副官の声が通信機から響いたのは、その時だった。
『今、そっちに向かっている! 気を付けろ……!!』
しかし、すでにケントの意識はその通信に向けられてはいない。今、集中すべきはそれでは無い。水の底からまるで巨大な魔獣が大口を開けているような圧迫感が、ぐんぐんと昇って来る。
『来るぞ……!!』
瞬間、ケントが大剣を引き抜きざまに振り抜くのと、水面から小さな黒い人影が数体飛び出すのとが、同時だった。
「なっ……!?」
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