第7章 ウェスト・ロンディアの鐘

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  業を煮やした近接型武器の者が3名、ケントへ突撃を図る。後衛の射撃を掻い潜りながらハンドガンを撃ち込むが、それはさすがにシールドで弾かれる。あっという間に詰め寄った前衛が、剣を振りかぶる。ハンドガンではとても対処しきれまいと見て、勝利を確信した彼等はニヤリと笑みを浮かべるが、それも束の間である。 不意に、ケントが疾走にブレーキを踏んだ。止まれば後衛の掃射に捕まる筈だが、弾は飛んで来ない。前衛がターゲットに接近したために、誤射を警戒して射撃が中止されたのだ。 いつの間にかハンドガンを仕舞ったケントの手が再び、背中の大剣の柄を握る。 「やあっ!!」 レベル2 月輪斬り 金色の重力波が轟音と共に、前衛の姿を飲み込んだ。彼等も咄嗟にシールドを張ったようだったが、装甲車を一撃で鉄屑に変えるほどの出力をゼロ距離から受け止めきれる筈が無い。 前衛を消し飛ばした金色の半月が、更に拡散しながら後衛へと迫る。しかし、 「せいっ!!!!」 鋭く響いた烈迫の気合い声と共に、何かが重力波を切り裂いた。正確には、信じられない事に、すり抜けて来たのだ。凝集されたエネルギーの塊が螺旋状に尾を引いて、正確にケントの体芯を捉えている。 「……っ!!」 その圧力に瞬間、気圧されてしまう。咄嗟に跳んで避けられる大きさでも無く、シールドで受けるのも危険と判断したケントは、くるりと大剣を一回転。『月の導き』で自らを弾き飛ばし、難を逃れた。 ドオオォォン!!!! 螺旋状の魔法が、白砂を抉った。凄まじい轟音が轟き、10メートル以上巻き上がった砂塵と激しい突風に姿勢を崩され、ケントは着地に失敗してごろごろと転がってしまった。幸い、ケントの大技に気をとられていた後衛達が追撃を躊躇ったお陰で、命拾いをした。 「やってくれたのう……」 砂塵の向こうから嗄れた声音と共に、線の細い影が底知れぬ殺気を膨れ上がらせた。ぞわりと、ケントの背筋が粟立つ。 魔獣が、大口を開けて待ち構えている。 それは、正規兵が見せる闘志でも、DOOLS兵が放つ冷たい殺意でも無い。セルル・セントフィアが放つ異常なまでの殺気よりも遥かに重厚な、そしてどこまでも静かで冷徹な殺気であった。  
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