君の一縷 

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すでに5人ほどの女性に囲まれてキャイキャイ盛り上がっている、その中心の、彼をまじまじ見てしまう。   ―――― だって、  隣の教室の中辻君と言えば、背が低くて、いつも黒縁の眼鏡をしていて、ちっとも洗練なんてされていない少年だった。   小さな町の学校で、あんなに地味で、おとなしくて、お勉強だけが取り柄と言ってもいいような彼にみんなが一目おいて名前を知っていたのは、彼が、中辻製作所の社長さんの、ひとり息子だったからに他ならなかった。   あの頃も、子どもなりに、みんな気を遣ってはいたけれど、今の私が見ているような、明るい空気の中でちやほやされている彼の姿は記憶にない。
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