君の一縷 

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ずっとそんな調子で、駐車場では押し込められるようになんだか高そうな車に乗せられて、そのまま会場へと向かっていく。   「……なぁ」 赤信号になった交差点の手前でゆっくりと停車すると、彼は信号を見つめたまま話しかけてきた。 「はい?」 「もしかして、覚えてない?」 ―――― 何を? その言葉に、私は焦った。 やっぱり知り合いだったんだ。 よりによって迎えに来てもらった人のことを覚えていないなんて、本当に立場がない。 心なしか、彼の横顔も不機嫌そうに思えてくる。 ……どうしよう。 嫌な汗が、ひんやりと滲み出た気がした。 ここは素直に謝った方がいいかしら、それとももう少し話したら思い出せる……?
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